「Q」の20話、シーズン2の8話。
幼少期に母親が行方不明になったという男性。母親がいなくなった現場である実家のもとに、謎の送付物が届くようになる。それを母親の手がかりと信じて、見当違いな推理に入れ込んでいく……という話。
これはいろいろな意味で傑作だった。過剰な考察勢に対する皮肉としては痛快だし、ホラーとしてもリアルな恐怖がある。
自分は「Q」を、「そこまで考えて作られてない」とまでは思っていないが、「制作や演出の都合上こうした方が良かったんだろう」で説明がつくことすら、必要以上に考察されている部分があると思っている。
自分も話を書く人だからわかるけど、制作側としては、そういうただの手抜きとも取れる部分すら考察要素として見てくれるならラッキーでしかないので、深い意味のない要素も常に存在すると思っていたほうが良い。
もちろんそれをわかった上で考察を楽しむのは良いけど、そのへんを考慮しないのであれば、それは考察というより、自分で辻褄が合うオリジナル設定を作っているだけに過ぎないと思う。
正直これに「考察勢をバカにしている」というほどの悪意があるかはわからない。最後の「それが生きがいかのように」のナレーションは、「みんな考察してくれてありがとう」という意図にもとれる。
ただやっぱり、作中での男性の言動を見て自分は「支離滅裂じゃないか」と思って、陰謀論者を見ているときの気持ち悪さみたいなものを感じたので、「お前ら冷静になれ」くらいの意図はあるのかな、というのが個人的な感想。
この男性は態度や話し方が少しぶっきらぼうな感じがする以外は特に悪い印象のない、普通の子持ちの既婚男性と見える。
母親がいなくなり、大人になってから当時のニュースの音声が送られてくるというイタズラに怒るのはとても自然だし、ぶち切れないだけむしろ優しい。
それが、母親っぽい人が映ってるとされる映像が送られてきてから、送られてくるものはすべて母親か犯人への手がかりじゃないか、と思いこむようになっている。映像は不明瞭すぎて、母親っぽいかどうかも微妙なところだ。
スタッフも黙って話を聞いているだけで、なんのリアクションも返さない。ぜんぜん違う場所にも見える、普通のよくある集合住宅の写真を「同じ場所で撮られている」と解釈しているのが決定的にやばい。
推理はどんどんエスカレートしていくので、どこから「いや、それは深読みのしすぎだ」となるかは人による。
でも個人的には、写真が栃木県の駅だというだけで関連があると思ってしまう時点で、どうした?と思った。行方不明になったのは栃木県の家なんだし、もともと当時のニュースの音声で嫌がらせしてくるようなやつなんだから、適当に栃木県の駅の写真を送っただけで説明がついてしまう。
それからもずっとこじつけや意味不明な理論が続く。「地図はルートを描くために作られた」というのも、それはよく考えると何の理由付けにもなってないし、何を言っているんだという感じ。
こじつけの仕方も、過激な考察勢がよくする、歴史とかを紐解いて共通点を無理やり見つけるみたいなものがふんだんに取り込まれていて、すごい皮肉的だなぁと思ってしまった。
根本的に、母親の手がかりを犯人がわざわざ送ってくる意味がないので、それがはっきりしない限りは犯人が送ってきたと考えるべきじゃないと思うんだけど、「この写真には”監視しているぞ”という意図がある」と解釈して自分の中で無理やり正当化できてしまっている。
まあ、理屈は支離滅裂ではあるが、ちゃんと自分なりに歴史や製品の名前を調べて調査とかも行ってはいるし、頭がすごく悪いわけじゃない。
陰謀論者のように、自分の意見と反するものをバカにしたりするわけでもないので、単に母親の手がかりを探したかっただけで悪い人じゃないし、可哀想だとも思える。
誰でもきっかけ次第でこんな風になってしまうんだぞ、というホラーでもあり、問題提起でもある……という印象(正直自分は「バカにしてる」ように見えてしまうけど、そうじゃないなら、「問題提起なんだろう」、と受け止めることにする)。
ちなみに書籍版を読むと少し事情が違ってくるらしいので、あくまで映像だけの感想。
ただ書籍版で裏設定が追加されて実は本当にこの男性の妄想がガチだったとしても、それこそ制作側の都合であり、この映像に対する感想は揺るがないと思う。